予想通り、気に入っていたところはどこも満室だった。
どこでもいい、そう言って入ったのは和風のコテージタイプのものだった。
部屋の前に車を止めて、中へ入ると作りはまるで一軒家のようで、ただ奥の部屋には怪しいオレンジ色のライトがついていた。
「ベッドじゃないんだ」
畳の上に布団が敷いてあるところは初めてだった。
「嫌? 」
後ろから声をかけられて智也はかぶりを振った。どこでもいいと言ったのは自分だ。
「後悔した、なんて言うなよ」
遼平が弱気な声をだす。
「なんで? 僕が連れていって欲しいって言ったのに」
智也が振り返ると、遼平は何も言わず目を細めた。


「なんか変……」
智也は戸惑っていた。
ベッドなら縁に腰掛けられるのに、それがないからどうしたらいいのか落ち着かない。
先に自分がシャワーを浴びて遼平を待っている間、座椅子に膝を立て体育座りなんてしていた。
遼平が早く戻ってこないかなと思う。
傍にいるとほっとするのに、見えないだけで不安になる。浴室のドアが開く音がして座り直したら正座していた。

戻ってきた遼平がくっと笑った。
「なんで? 」
笑われる意味が分からなかった。
「なんか初夜の奥さんみたいだ」
可笑しそうに顔を伏せる。
着替えにおいてあったのは浴衣で、いつもと勝手が違った。
「だって……」
どうしていいか分からなかった。布団に先に入って待っていたら、あまりに即物的な感じがした。
「可愛いよ」
遼平がしゃがんで手で頬に触れる。近づいてきた顔ははっとしたように逸らされた。
「ごめん」
視線を伏せ謝りの言葉を口にする。
前にキスは嫌だと言った。確かにあの時は嫌だった。
「こっち向いて」
智也が言いながら顔を覗き込むようにすると、遼平はゆっくり顔を智也へ向けた。智也は遼平の肩に手を置いて唇にそっと触れた。触れた唇は驚いたように少し 開かれた。
遼平の唇を舌で撫でるようにして、それから少し開いている中へ差し入れた。キスなんてしたことはなくて、どうしたらいいのかは分からない。そんな心配をよ そに、すぐに立場は逆転していた。頭を押さえられて、自分が入れたはずなのに、いつの間にか遼平の舌が自分の口内をまさぐっていた。
「ん……」
口内を撫でられて舌を絡めてられて体の力が抜けていく。レモンの味なんて嘘だと思った。心地よい甘さを感じた。息が苦しいくらいだったのに、離れていくこ とが嫌だと思った。
「よかったのか? 」
まだ微かに触れる唇が動く。
「ん、もういいんだ」
顔を逸らされたことに寂しさを感じた。
「キスは……嫌だったんだろ?」
遼平が首を傾げて顔を覗き込む。
「うん。好きじゃない人とはしたくない」
遼平が一瞬きょとんとして、それから信じられないように眉を寄せて険しい顔をした。
「それって、許してくれるってことか?」
「違うよ。許せるわけないよ」
楽しかった毎日が切なさと苦しさになった。
「だよな……じゃあ、俺はどうすればいい?」
「僕が飽きるまで、ずっと僕の傍にいて」
それしか思いつかなかった。
遼平が不思議そうな顔をする。
「飽きたら許してくれるのか?」
「そうなったら、もうどうでもいい存在ってことだから」
すぐに忘れられるだろうと思う。
「それは嫌だな。お前に飽きられないためにはどうすればいい?」
「当分飽きそうもないよ」
忘れたくて、忘れたくて、でも、できなかった。
「望むところだよ、智也。一生でもいい」
「いいのそんなこと言って」
智也が遼平の首へ腕を回すとそのまま覆い被さってきた体に組み敷かれた。ぎゅっと抱かれて。
「会いたかったのは俺の方だ」
耳元で囁やく声がある。その声に胸が熱くなって苦しくなった。
「じゃあ、なんで会いに来てくれなかったんだよ」
塾が終わった後で、つい見てしまう空間には何もなくて落胆した。
「それが、俺にできる唯一のことだと思ったから」
薄い浴衣を挟んでぴたっと合わさった体は遼平の高ぶりを伝えてくれる。
「ずるいよ。勝手に決めて」
「ごめん」
息をするのが苦しいほど、遼平の腕がぎゅっと抱きしめてきた。

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