毎週土曜日の午後は智也に会い、平日週三日の夕方と日曜日はバイトに行き、後は大学やら課題消化やらと、遼平はそれなりに忙しい日々を送っていた。
倉庫の検品のバイトは、時間に融通が利くことを気に入って、大学に入ってからずっと続けている。
今まで平日週二回にしていたものを三回にした。来年からゼミも始まって就職活動のことも考えると、バイトしていられる時間はどうしても少なくなる。智也と 会うためには、それなりの金は必要だった。
できるなら、来年の分も稼いでおきたい。
そんなことを思って、笑いがでる。
恋人なんかじゃない。
いつまで続けていられるのか、分からない関係だ。
それでも、智也が自分に対して変わってくるのを肌で実感するから、恋人のような錯覚さえ抱いてしまうことがあった。
どこか覚めた冷たい表情は和らいできた気がするし、問い掛けたことにちゃんと応えてくれるようになった。
「どこに行きたい? 」
そう聞いた問いの答えが、
「この間のところは嫌だ。その前の方が良かった」
とか
「あそこきれいそうだね」
とか言うのが、ちゃんとした応えといえるのかどうかは難しいけれど、前のようにどうでもいいと投げやりになることは無くなった。
けれど、思わずキスしそうになると、顔を背けられてしまう。
ベッドの中では言いなりにはなるけれど、それだけだ。体は反応をくれる。それは与えられるものを受け入れるだけで自分からは何も望んではこない。
最初はそれでも良かった。
なのに、人間はどこまでも欲張りらしい。

温まったジェルはピチャピチャt音を立てていた。
智也は切なげな顔をして、シーツを握りしめていた。足はあてどもなく彷徨うように落ち着かなくて、絶対欲しがっていると思った。
欲しい――――そう言ってくれればすぐにやるのに、そう思いながら遼平は智也の体に手を口を這わせた。
欲しいならそう言えよとばかりに、頬に手を当てて自分の方を向かせるとそれは失策だったりする。
―――― くそっ
潤んだ瞳に見つめられると、自分の素志などどこかへ飛んでいってしまう。
それでも、智也が満足してくれるならいいと、自分に言い聞かせていた。
体を思い通りにさせているのだから、それ以上を望んではいけないのだと、そう言い聞かせていた。

智也に初めて会ったのは、春だった。夏が過ぎ、秋も半ばを越えた。日も短くなり、もうすぐ冬が来ることを予感させていた。
「どこへ行きたい? 」
半年近く、変わらない挨拶だ。
「きれいなところがいい」
一回えらく汚いところに当たって以来、よく口にする言葉だった。
床は埃が舞い、風呂はかびだらけで、排水溝からは異様な匂いがした。けれど、シーツだけは代えられているようで白くピンと張られていた。そこだけがきれい なのが、何か異様に感じた。
智也は自分がお金は払うから、ここは出たいと言った。あれ以来、少し慎重になっている。
「この間、満室だったところへ行ってみようか」
外観はレンガのお城風の作りできれいなところだった。
「あ、うん」
智也が思い出したように頷く。
部屋の中は入ってみなければ分からない。
「じゃあ、その前にドライブして軽く昼飯済ませようか」
「うん」
智也は素直に頷く。
会話はまるで恋人同士のようだと思う。けれど違う。
哲平のこと抜きに付き合って欲しい。そう何度も言おうとして言えなかった。脅してまで付き合おうとしたやつなんて、切れるなら切りたいだろう。
もう、欲しいじゃない――――離せない。
反抗はしないまでも態度はそっけない。そのくせ、ベッドの上で体はこの上なく素直だった。
征服欲とでもいうのだろうか、ベッドでの智也に遼平はぞくぞくした。


展望台の先に海が見えた。
「風がきもちいい」
柵の上に座って智也が言う。
「そうだな」
会話は恋人のようだ。
「行こうか」
「うん」
智也が柵から降りる。決して反抗はしない。
けれど、顔を寄せると、顔を背ける。その時こいつは恋人じゃないと思い知らされる。

「やっぱり、きれいだね」
部屋を見回して智也が言った。部屋も広くてニ間あり、大きな丸いベッドが置かれていた。
「お風呂もきれいだよ」
まるで、マンションのモデルルームを見に来たようにあちこちを見て回る。
「すごーい。ベッドにボタンがついてる」
智也が押しているらしく、明りの色が変わったり、ミラーライトが回ったりしていた。
「智也」
後ろから頭をくしゃと撫でると、智也が振り向く。
「うん、分かってるよ。シャワー浴びてくる」
視線を落とし、俯くようにして、智也は遼平の脇を抜けて行った。
――――そんなつもりじゃなかったのに
遼平は拳を握った。
ただ、はしゃぐ智也が可愛くて、触れたくなっただけだ。
けれど、智也は、ただやりたいだけに会っていると思っているんだろう。
何度も好きだと言っただけどその言葉は右から左へ通り過ぎているようだった。目的はやることだと、そう思われるのは仕方ないことかもしれない。欲望の塊だ と思われても反論はできない。 ただ、それが一番早く智也を手に入れられる方法だと思った。
もう、ためらうこともなく、智也は服を落とすと浴室へ消えていく。

「ん……」
智也が甘い声を零す。
慣れた体はすぐ指を飲み込む。
乳首は触れるだけで硬くなる。
熱を帯びた肌は少し桜色めいて艶っぽい。乳首を舌で転がすと、切なげに喉を鳴らした。
――――喜んでるだろ? お前だって
そう訊いたところで返ってくる返事は期待するものではないと思うから聞かない。
所詮、脅して好きにしている体だ。
智也の本意じゃない。
ずっと、こんなことを続けていくのか?
そう自分に問い掛けたら、そりゃ、恋人になりたいと思う。
それが世間から見ればマイノリティなものであっても、今の関係を考えればよっぽど健全だ。
成れるのか?
無理だな。
智也の肌を這いながら、そんなことを思っていた。
卑怯もんにそんな明るい未来があるはずがない。智也が覚悟を決めれば、ぽいっと捨てられるだけの存在だ。
それでいいのか?
嫌だと言ったところで、まともに相手をしてくれるはずはない。
それで諦められるのなら、最初から手なんて出さなきゃいいだろ。
そりゃそうだ。
自問自答の結論はすぐ出る。
でも、こんなに奥まで入り込んでくるなんてことは分からなかった。
こんなに離したくなるなんて思わなかった。
分かっていたら?
それでも欲しかったのだろうと思う。
遼平は指を抜いて、智也に覆い被さるように向かいあった。濡れた瞳が怪訝そうな色を見せる。小さく荒い息が口から零れていた。
「好きだよ」
智也に向かって呟いた。
脅してまで手に入れたいと思ってしまった。
「言葉なんて……いらない」
智也が顔を背ける。
「じゃあ、何が欲しい? 」
遼平の問いかけに答えは無かった。
心が手に入らないのならと、体を欲しがって。体を自由にできる今、心を欲しがる。体だけを手に入れたことが、かえって虚しく思えた。言葉さえ聞いてもらえ ない。
緩くたちあがった智也のものは先端を露で濡らしている。
心なんてないのに、刺激すれば体は感じる。今、こいつが欲しいのは、上り詰めるための体への刺激だけだ。
小さくため息をこぼすと、遼平は体をかがめて智也のものを口に含んだ。
「あ、いやっ、嫌だっ」
智也が叫ぶ。
――――気持ちよくしてやるよ。だから分かって欲しい
もう離したくないほど、心の中を占領していて、終わりにはしたくない。
なら、どうすればいいのか。
誠意を示すしかないだろう、と思った。
――――もう欲しがらないよ。智也が許してくれるまで
自分の欲望はお預けにする。智也のことだけ考える。
智也だけ、気持ちよくしてやる。

「やめっ」
叫びながら智也は体をゆすって手で体を引きはがすようにして嫌がった。
遼平は一旦、口を離した。
「いいよ、イって」
今となっては、それしか気持ちを示してやる方法が分からない。
「いやっ」
智也が顔を歪める。
初めは、すごく嫌がった。けれど、もうそんなことはなかった。呑まれるように、素直に快感を享受していた。なのに、突然嫌がる意味が分からなかった。
「どうした? 」
遼平は手を智也の頬の伸ばして、なだめるように撫でた。
言葉で嫌がることはある。それは、本気の抵抗だとは思わない。けれど、体で嫌がったのは初めてだった。
「いやだっ」
叫びながらかぶりを振る。
「智也、それだけじゃ分からないよ」
遼平は智也の頭をぎゅっと抱きしめた。初めての時でさえ、口では嫌だと言っても、体は抵抗しなかった。する抵抗といえば、顔を背けるくらいだったのに、突 然暴れるわけがわからない。
「……欲しい」
智也が肩口に額を押し付けてくる。
「え? 」
「このままイかされるのはやだ……指だけなんてやだ……あなたのが欲しい……あなたのものが……」
欲しい?
それが自分の欲しかった言葉だと分かるのに、遼平は少し時間がかかった。
「ここ? 」
指で窄まりを撫でると、きゅっと締まる。
「お願い……」
智也の声は苦しげだった。
顎に手をかけて上を向かせると智也は泣きそうな顔をしていた。潤んだ瞳は今にも滴を零しそうだった。

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