今日はすっぽかされるかもしれない、遼平は毎週そう思っていた。
けれど、智也はいつも不安そうな顔をして助手席側から車の中を覗いてきた。
「今日はどこにする? 」
「どこでも」
それは決まった挨拶のようで。
初めは海が見たいと言ったけれど、結局は人に会いたくないだけのようだったから、都会から離れた行楽地を順番に訪ねた。
行っても食事してちょっと景色を見て、メインは別にある。
回数をこなせば色んなことに慣れてくる。コンビニで少しの食べ物を調達してから、ホテルに入るようになった。水が飲みたいと思っても、完備されている冷蔵
庫
のものはべらぼうに高かったり、メニューが置いてあっても、高いくせにどうせ冷凍ものだろうと思った。それなら、コンビニで買った方が色々便利が良い。
「シャワー浴びてきますね」
部屋へ入ってすぐ、遼平が何も言わなくても、智也の方から言うようになった。
初めて二人で海に行った日から一ヶ月以上が経っていた。
浴室から出てきた智也に「俺もシャワー浴びてくるよ」と声をかけると、智也の体が固まった。
わざわざ声をかけたことは、遼平意思表示だった。ゆっくりと見上げてきた智也の顔は、諦めの色をもっていた。
とうとう――――そんな感じなのだろう。
我慢したと自分でも思う。遼平はこれ以上我慢する理由を見つけられなかった。
遼平が浴室から出てくると、智也は俯いてベッドの端に座っていた。
智也のバスローブを剥いで自分もバスローブを脱いでベッドの脇に落とし、智也を押し倒すようにして上に覆いかぶさった。少しは抵抗するかと思ったのに、
智也はただ顔を少し逸らしただけで、ベッドの上で肢体を力なく横たえていた。
智也がもし女だったらこんなことはしなかったと思う。男であることが、理性の垣根を低くする。
乳首を口に含むと、ぴくっと体は反応する。そして、それ自体はすぐ硬くなっていく。舌で転がすと、息を荒げていく。肌に触れていると、体が熱をもってくる
のが分かる。
体は完全に自分の手の内にあった。
ジェルを手にとり窄まりに触れると、智也は自分から少し足を開いてきて、誘うように指を飲み込む。
初め拒むようにきつかった智也の体は、今、同じものかと思うほどの柔らかさを持っていた。指を一本入れて馴染ませ、ニ本に増やす。内壁をなで上げると、体
は揺らめき、ためいきのような嘆息をもらす。
「あ……、んっ」
しこりのような感じるところをさすると、もっととねだるように熱い息を吐いた。
指を抜くと、智也は不安げな視線を向けてきた。
本当に入れるの? そう訊いているような瞳は潤んで艶っぽい。
やめさせたいのなら逆効果だよ、と遼平は思った。感じているのが分かるのに、放り出せるわけがない。
「バックがいい? その方が楽らしいよ」
一応希望を聞いてみた。
「どっちでも……一緒だよ」
力なく言うと、智也は顔を背けた。愛想がないのは、今に始まったことじゃない。心の中でため息をつくと、遼平は智也の足を広げて足の間に自分の体を滑り込
ませた。どっちでもいいなら、顔が見えた方がいい。
ジュルを自分のものに塗りつけ智也の腰を少しあげて遼平が智也の窄まりに自分のものを押し当てると、顔を背けたままの智也がはっとしたように体を引く。
望まれてないことなんて知っていた。それでも欲しいと思ってしまった。
一回深く息をして、智也の体を押さえ込むと、遼平は先をくっと押し込んだ。
「あっ……」
智也が体を強張らせて仰け反る。
「力、抜いてごらん」
そんなことを言っても大人しく訊かないだろうと思っていたのに、智也は体の力を抜いた。
「そう、そのまま、ゆっくり息して」
だめもとで続けると、呼吸がゆっくり深いものになる。
「そうだよ、そのまま」
遼平は智也の体をなだめるように触れながら、自分のものを少しづつ収めた。先端を入れただけで伸びきったように見えた襞はそれでも、遼平のものを少しづつ
飲み込んでくれた。
遼平に言われるまま、智也はずっとゆっくり呼吸をしていた。
「もう、いいよ」
遼平がそう言ったとき、智也は悲しげに目を細めた。そのまま、シーツに落としていた腕を顔に持ってきて、目を隠すようにした。
――――泣いてる?
そう思って遼平が智也の腕を持ち上げると、潤んだ瞳から滴はこぼれていなかった。
「バックにしてもらえばよかった」
ぽつんと智也が言った。
「もう遅いよ」
言いながら、遼平は智也の頬を撫でた。
「好きなんだ」
それで全てを許されるとは思っていない。けれど、気持ちを返してもらえないと分かっていても、欲しいと思ったのは初めてだった。
「そんな言葉……いらない」
智也が視線を伏せる。
それはそうなんだろうと、ぼんやり思った。智也にとって自分は脅して体を自由にされているだけに過ぎないだろう。
ならば。
「動くよ」
遼平は声をかけた。
感じさせてやることがせめてもの償いだと思う。
智也の中は温かくて優しく包んでくれている。なのに、入り口はきゅっと握られているようだった。ゆっくりと途中まで引き抜いたものを、またゆっくりと挿し
入れる。締め付けるそこは女のそれとは違っていた。きつい締め付けにすぐ息はあがっていき、快感に自分を忘れてしまいになる。けれど、自分がイクより先に
智也をイかせてやりたかった。
智也が喜ぶところを探しながら、抽挿を繰り返す。荒い息の中で、時折智也は悲しげな声をもらした。
かぶりを振り、シーツを掴んでいた手をあげ、それは宙で緩く拳を握ると力を失ったように落ちる。
「智也……」
イきたい?
遼平はゆるく立ち上がっている智也のものを、手に握った。
「いやっ――――」
智也が強くかぶりを振る。それは、智也がイきたい時のしるしみたいなものだった。
自分ももう限界だった。
智也のものを擦り上げながら、遼平は動きを速くした。
「あ、あ、あぁ――――」
揺れながら、智也が体を仰け反らせる。放たれたものは、智也の下腹部を汚した。
「くっ……」
更にきゅっと締め付けれて、遼平も智也の中に落ちた。
がくっと力が抜けて、遼平は智也の脇に手をついた。後から後から荒い息が出てきてなかなか収まらなかった。額が汗ばんでいて、滴がぽたっと落ちる。それ
は、智也が
放ったものを巻き込むようにして一筋流れた。
ふっと顔を上げると、智也の顔が視界に入る。智也も、胸を上下させ、荒い息を吐いていた。触れた肌も熱も持って湿っている。
よかっただろ?
遼平は心の中で呟いた。聞いたところで、まともに応えてくれるとは思えない。
体を伸ばして、智也の汗ばむ額に張り付いた前髪を払ってやった。
一瞬視線を向けて、そして視線を伏せると、智也はゆっくり目を閉じた。
遼平がシャワーを浴びて浴室から出てくると、遼平がベッドを降りたときのまま、智也はベッドの上で壁の方へ体を向けて横になっていた。
「風呂開いたよ」
遼平が声をかけても智也は返事をしなかった。
「智也? 」
遼平がベッドの上に乗って、上から智也を覗き込むと、智也はうっすらと目を開けた。
「もう、時間ですか? 」
力なく応える。
「いや、まだ大丈夫だけど……延長してもいいし」
「そうですか」
また目を閉じる。
実際、入れられる方の体の負担がどれほどのものか分からない。
「さっと、体だけでも流してきた方がいいよ」
汗もかいていたし、汚したところはティッシュで拭っただけだった。
「眠い……」
智也の返事は、遼平に期待するどれもと違っていた。
寝る時間にはあきらかに早い。窓が閉められているから、外の様子は分からないけれど、時間はまだ夕方だ。
それだけ、体が辛いということなのだろうと思った。
遼平はベッドから降りると、浴室に行って熱いお湯を洗面器に汲んで戻った。
「少し、じっとしてて」
声をかけると、まず、智也の顔を濡らしたタオルで拭ってやった。
智也が目を開けて怪訝そうな視線をむけてくる。
「何もしないより、少しは気持ちいいだろ? 」
首筋肩を拭い、タオルを洗面器のお湯で洗って絞ると、腕や胸を拭ってやった。
「なんで、そんな優しいんですか? 」
大人しく遼平に拭われながら、智也が口にする。それは自分に対するには相応しくない言葉だと思ったけれど。
「好きなやつには、優しくなるもんじゃないの? 」
気持ちのまま応えた。
「やりたいだけじゃないんですか? 」
そう思われていたのは、少し心外だった。
「やりたいだけなら……最初からやってたさ」
相手のことを傷つけても構わないと思うなら、慣らすことなんていらない。
「……僕が好きなのは――――」
「じっとしてろって言っただろ」
先の言葉は聞きたくなくて、智也の言葉を遮るように強く言った。
「わかってるさ、そんなこと」
呟くように続けると、智也が顔を背けた。
表情ひとつ、仕草ひとつ、哲平に対するものは全部違う。
智也の体を拭いてやると、コンビニで買ってきたペットボトルをひとつ開けて、一口飲んだ。
「お前もいる? 」
背中に声をかけると、少し体を傾けて遼平の方を向いた智也が緩くかぶりを振った。
「僕、だめなんです、そういうの」
「そういうの? 」
飲めないものではないはずだった。
「回し飲みとか、人が口をつけたものって、だめなんです」
でも――――そう言おうとして遼平は言葉を飲み込んだ。
哲平は別ってわけだ。
そういえば、キスだけはいやだと言っていたな、と思った。
「じゃあ、これならいいだろ」
新しいものを智也の前に差し出してやると、手を伸ばして受け取る。
――――哲平は別ね
体を手に入れて満足なはずなのに、遼平は一抹の虚しさを心の隅で感じた。