「はぁ……」
遼平は智也がいなくなったベッドに腰を下ろしてため息をひとつ零した。
浴室から、水が流れる音が聞こえていた。
何が嬉しいんですか? ―――― そう言った智也の言葉が思い出される。
何が?
それは分からない。
ただ、智也を見ていると、何かに背を押されたようになる。喘がせて、自分の中に取り込んでしまいたくなる。
それが、言葉ひとつで容易にできる。
知られたくないんだろ?
そう言えば、智也は思い通りになる。智也が自分の意志で、遼平の言葉のまま動く。
現に今、これから抱かれるためにシャワーを浴びている。
きゅっという音がしてシャワー栓が閉じられ、かたんという小さな音で浴室のドアが開いた。
仕切りもない狭い部屋は浴室から出てきた智也をそのまま見せてくれる。智也はバスタオルを籠から取ると、体を隠すように後ろを向いた。その姿すら、そそら れる。

滴が体を流れていく。筋肉質でもなければ、骨と皮というわけでもない。ちょうど良い肉付きをもち、尻はきれいな丸みを帯びきゅっと上にあがっていた。
昔、人間が二足歩行になったとき、男の気を引くために視線に近い女の胸が大きくなったらしい。四足歩行のとき、男の気を引いていたのは尻だった。
だから、尻を見て欲情するのは、昔からある習性のはずだ。だからといって、誰の尻にでも欲情するわけじゃない。
体を拭いてバスローブをはおると、顔を伏せたまま近づいてきた智也は、遼平の隣へ座った。
「言われた通りにしましたよ」
下を向いたまま視線も合わせずに言う声はどこか冷たかった。
「そっか……」
遼平は智也の頭の手をかけて髪の毛をくしゃっとなでると、そのまま手を下へもっていき、顎にかけて自分の方へ向かせた。すると、すぐに、顔を背ける。
キスだけはどうしても嫌らしい。
――――まあ、いいさ
遼平は心の中で呟いた。
首筋に唇で触れると、智也の体はぴくりと反応した。けれど、逃げようとはしなかった。本当に、キス以外はいいらしい。
膝をすくいあげて智也をベッドの上に転がした。顔は背けて、けれど、体は抵抗しない。
「キスはしないよ」
そう言うと、遼平は智也の上に覆いかぶさり、バスローブをはだけた。
「あ……」
逃れるように捻った体は、はっとしたようにすぐに力が抜けて大人しくなった。視線はどこか遠くを見ていた。
「気持ちよくしてやるよ」
遼平は智也の乳首に軽く歯をたてた。
「っ……」
喉を鳴らし体が反応を返す。気持ちなんてなくても、体は刺激に反応する。
舌でくすぐると、乳首は硬くなってくる。反応を返したくないんだろう、体が強張っているのがわかる。けれど、吐く息は荒くなっていった。
もう一方の乳首を指で転がしながら、遼平は智也の体に舌を這わせた。絹のようなしなやかな肌は拒むことなく馴染む。
「んっ……」
智也は鼻から抜けるような声を出し、ゆるくかぶりを振った。
いやだ――――心の中でそう叫んでいるのが聞こえるようだった。好きでもないやつに、体を弄られるのが嫌だと思うのはごく普通のことだと思う。
けれど、何かに急かされるように手は動きをやめない。せめて、体だけは喜ばせてやりたいと思った。
智也のものに、手を伸ばすと優しく握って扱いた。
「あっ……」
智也が宙に浮かせた手は、拳を握るようにして落ちると、シーツを掴んだ。
直接刺激をうけたものは、すぐ硬くなってくる。
遼平は手を伸ばしてベッドの脇に置いていたバックの中から、ビンを取り出した。
平らな胸が上下していた。智也は荒い息をあげながら、宙を見ている。
蓋をあけて中身を手に落とすと、ねっとりした液体が掌に落ちてくる。少し手の中で暖めて、智也を抱きこむようにすると、足の間に手を入れて窄まりに触れ た。
「あ……、やっ……」
智也が遼平の肩口でくぐもった声を出す。その後、肩に額を押し付けてきた。
初めて頼られたような気がして、遼平は智也の頭をぎゅっと抱きこんだ。
「痛かったら言って」
そう耳元に囁いても返事は無かった。
ジェルでぬるぬるになった窄まりを撫でると、襞がひくひくする。人差し指の先だけ入れると、きゅっと締まった。弱い粘膜を傷つけるのは本意ではないから、 遼平は智 也の緊張がとけるのを待った。じっとしていると少し緩んできて、少し奥へ入れるとまたきゅっと締まる。
「体の力を抜いてごらん。そうしたら気持ちよくなるから」
そんなこと言ったところで聞いてはくれないだろうけど、と思いながら。
「逃げられないのは分かってるんだろ? なら、痛いより気持ちいい方がいいだろ? 」
そう続けた。
智也を傷つけたくないのなら、やめてやるのが一番だってことは自分がよく知っている。
そうできるなら、こんなところには連れてきやしない。
こいつは、男なのに、なんで欲しいと思ってしまったのだろう、智也を抱きこみながら遼平は思った。
哲平に言いたいなら言えばいい――――智也にそう言われたら何もできなかった。
少し緩んだところに、また少し差し入れて、内壁を探りながら、智也が感じるところを探した。
最初は笑顔が見たかった。あんなに素直に笑うやつを初めて見たと思った。けれど、それは哲平限定だった。
それがだめなら、自分の下で喘がせたいと思った。
哲平には見せないだろ? そんな顔。哲平とは、そんなコトになるはずはないのだから。
だから、気持ちよくさせてやるよ。
そう思う。
遼平はそのポイントを見逃さないように丁寧に指を這わせた。
耳元で智也が呼吸する音が響いていた。それが、一瞬とまった。
「あ、やっ――――」
智也の体が強張って、ぐっと頭を内側に入れてくる。手はぎゅっと遼平のシャツを掴んだ。
「ここ? 」
遼平が智也が反応を示したところを何度も擦ると、智也は大きく息を吐き、何度もかぶりを振った。
あお向けに押し倒すと、智也は瞳を潤ませ切なげに顔を歪めていた。
「ここ、なんだね? 」
遼平が智也の中を擦りながら確認するように言うと、更に顔をゆがめる。分かってしまえば簡単だ。
ゆっくりと優しく擦り様子を見ながら、時々強く擦る。
「やだ、やだ、あっ――――」
目を潤ませて、智也が抗議する。遼平が指を動かすたびに、温まったジェルが音を響かせた。緩く立ち上がったものは、先端が光っていた。
「こっちも欲しいみたいだね? 」
遼平は抱きかかえていた智也をベッドへ下ろすと、智也のものに口をつけた。
「いやっ……」
口では抵抗するのに、智也が遼平の背中へかけた手はすべり落ちて、シーツを掴んだ。
「あ……、んっ……、あ、やだ……」
まるで、だだをこねている子供のような声を出して、けれど、腰を震わせて智也のものは遼平の口に中で硬く大きくなっていく。
もう、限界は近いのだろうと遼平は思った。
「やだぁ……」
もう、出す声は泣き声に近かった。開かれた足は膝を立て、彷徨うように動く。
出せばいいのに、必死に我慢しているように見えた。
それなら、と。
遼平は、中を強く摩るのと同時に、智也のものを速く強く扱いた。我慢できなくさせればいい。
「あ、あ、っ――――」
智也が体を仰け反らせるようにして体を振るわせた後、遼平は口の中に苦味を感じた。
「うっ……」
智也が泣きそうな声を出す。
遼平が顔をあげて智也を見ると、潤んだ瞳から零れ落ちるものがあった。

「なんで泣くんだよ」
荒い息を吐く智也を抱きしめて。
「当たり前か」
遼平は独り言ちた。
「でも、気持ちよかっただろ? 」
訊いた遼平に、智也は顔を逸らした。まあ、当たりなんだろう。そう遼平は思うことにした。
「早く、終わらせちゃってくださいよ」
顔を背けたまま、智也が言う。
「終わらせる? 」
「僕を……抱くんでしょ? 」
声に諦めを感じた。
「抱くよ」
ぎゅっと抱きしめた。
「なら、早くしてよ」
まるで嫌なコトはさっさと終わらせたいように言う。
「今日は無理だよ」
「なんで? 」
智也が怪訝そうに遼平を見た。
「まだ、無理だよ。慣らさないと傷つけるだけだ」
「いいよ。構わないよ」
智也が顔を歪める。
「お前、一回で済むと思ったの? 」
突然智也が驚いたような顔をした。
「俺はお前と付き合いたいって言っただろ? 突っ込んでお終いにする気なんてないよ」
「え? 」
口をぽかんと開けたまま、意外そうな顔をする。
「来週も迎えに行くよ。後で携帯番号教えるから、都合が悪かったら電話して」
「そんなつもりじゃ……」
智也が視線を伏せた。
「やめる? 」
遼平が言うと、智也は唇を噛んで下を向く。
「時間もあるし、シャワー浴びておいでよ」
智也の体を起こすと、背中を押した。
何か言いたそうな顔をして、けれど、何も言わず、智也はベッドから降りると浴室へ行った。
浴室のドアが閉まって、水の音が聞こえると、遼平はベルトを外してチャックを下ろすと、自分のものを取り出した。
きゅうくつなところに収まっていたそれは、弾けるように出てきて震える。
「よく、我慢できたよな」
自分のものに手を添えると、扱き始めた。智也の潤んだ顔を思い出すだけで息があがってくる。
時間はなかった。強く刺激すると、それはほどなくして熱を放つ。
ティッシュで拭い、またズボンの中に収めた。
「なんで、こんなことやってんだろ」
自分に対してぼやきがでる。
智也もやるならやれと言っていた。一回で終わりにするかどうかは別にしても、やってしまおうと思えばできたはずだ。
それができなかった。
ここまで来て、臆病風に吹かれたわけでもないのに、自分でも分からない。
それでも、来週の約束ができた。
「お前は許せないかもしれないけど……俺はお前が好きらしい」
遼平は智也がいる浴室に向かって呟いた。

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