車に乗り込むと、智也は疲れたように座席に沈みこんで目を閉じた。
無防備な姿は、まるで、襲ってくれと言っているように、遼平には見えた。
車を走らせて、遼平は来るときに目をつけていた路地を入った。大概のそれ用のホテルはかたまって建っている。土地勘があるわけじゃない。外観でだいたい中
身も分
かるか
ら、
それなりのところを選べばいい。
もし、チャンスがあればと思ったし、その準備もしていた。けれど、頭のどこかで押し留めるものもあった。
けれど、挑戦的にも見える瞳や、言葉や態度は誘っているようにしか思えなかった。
現に、今、助手席でぐったりしているように見える智也は、遼平がどこへ行こうとかまわないように見える。
子供じゃない。もう、先を予想しているのかもしれない。
空室の案内を確認して、ひとつのホテルへ入った。智也は誰にも会いたくないと言ったから駐車場から部屋まで直接続いているタイプがいいだろうと思った。
「少し休んで行こう」
声をかけると、智也がうっすら目を開ける。
「ここは? 」
少し見回して、怪訝な表情をした。
こういうところへ来たことはないのだろう。見回したところで、見えるのは、向かいにもある別館の駐車場くらいだ。
「来れば分かるよ」
遼平は先に車を降りた。
ためらうような仕草をして、智也は不安そうな顔をしながらも車を降りてきた。
駐車場の奥にあるドアを開けて、先に智也を通す。遼平は少しずつ自分の心臓の鼓動が大きくなってくることを感じた。
「ここは? 」
智也が入り口を入ってすぐ伸びる階段の上を見上げるようにして訊く。
「カラオケボックスだよ」
答えながら、遼平は後ろ手で鍵をしめた。まんざら嘘ではなかった。実際そういう設備があるところもある。
「カラオケ? 」
怪訝そうな声を出し、それでも、智也は階段を上っていった。そのすぐ後を、遼平も付いていった。
二人並んで上るにはきつい幅の階段は、手を広げてしまえば逃げることはできない。
階段を上がったところで、智也は立ち止まった。
薄暗い部屋には部屋の半分以上を占めるだろう大きなベッドが置かれていた。
「一緒にいるところを誰にも見られたくないって言っただろ? 」
遼平は智也の腰に手を回すと、先へ促した。ゆっくり顔を向けた智也は信じられないという顔をしていた。
――――毒を食らわば皿までも、だな
そう遼平は心の中で呟いた。
拒まれれば拒まれるほど、欲しいと思う。その気持ちがどこから来るのか分からない。手を緩めたらすぐ逃げてしまって、きっと逃がしたら後悔する。絶対、逃
がしたくなかった。
智也は抵抗しなかった。遼平に促されるままベッドの縁に腰掛けた。
「ここなら、誰にも見られないから何をしても大丈夫だよ」
智也の向かいに立って腰を少し落とし、前髪をかきあげてキスをしようとしたら、智也は顔を背けた。それは、初めて智也が見せた抵抗だった。
「こんなことして、何が嬉しいんですか? 」
智也が苦虫を潰したような声をだす。
「好きなやつを抱きたいって、男なら誰でも思うだろ? 」
顔の輪郭をなぞるように手を滑らせて、顎に手をかけるとくいと上を向かせると、智也は非難するような歪めた顔そのままで遼平を睨む。
段々と智也の顔が変わっていく。会ったときの不安そうな顔は挑戦的な顔になり、今は恨みさえ感じる。それでも、逃げようとはしない。
「逃げようとはしないんだな」
掴まえるつもりではいる。けれど、智也がするのは顔を背けるくらいだった。
「逃げたら……」
智也が唇を噛んだ。
「そんなに知られたくない? 」
顎にかけた手を振り切るように智也は顔を背けた。
そんなに知られたくないのか――――。
「自分で言ったことだろ? 」
電話をかけてきたのも。告白の言葉を口にしたのは智也だ。
「あの時、僕はおかしかったんだ。あの日、哲平と斉木が教室で絡んでいて――――後で理由はわかったけど、斉木はやなところを見つかったって顔するし、哲
平は何してたのか聞いてもはぐらかすばっかりで。性的指向が違うって分かってたから諦めなきゃいけないって思っていたけど、違うなら、哲平を誰にも取られ
たくなかった。でも、分かったから、全部分かったから、哲平に知られるのは嫌だ」
苦しげに言葉にする。
「黙っていてやるよ、だからいいだろ? 」
もう一度顎に手をかけた。
「キスだけは嫌だ。お願いだから――――」
智也の声は震えていた。
「なら、それ以外ならいいのか? 」
遼平の問いかけに答えは無かった。
「じゃあ、シャワー浴びてこいよ」
遼平は顎にかけた手を離した。
智也は顔をふせたまま立ち上がると、遼平の脇を通り過ぎていった。