土曜日、塾の終わる時間に合わせて、遼平は智也を車で迎えに行った。後ろの席に放ってある鞄の中には、それ用のグッズも用意していた。

海に行きたいってことは、そういうことだよな、うん。
頭の中で一応確認する。
付き合っているやつらが海へ行ったら、帰りに寄るところといえば決まっているだろう。
そうとは限らないだろ、そう頭の隅の方から聞こえる小さい声は無視した。
わざわざ塾まで迎えに行かなくても、智也は逃げない気はした。
自分から電話してきて告白したくせに、その内容を伝えると言っただけで素直に従ってきた。
だいたい、哲平に自分の気持ちを告白すれば、何も負い目はなくなる。なのに、それよりも、言いなりになることを選んだということは、少なくとも今は知られ たくないのだろう。

ずるいよな。
それは分かっている。
それでも、言葉が止まらなかった。
心が透き通っているような笑顔が見たかっただけなのに。
――――それは、相手が哲平だからだろ?
心の奥底で少し残っている良心が、すかさず突っ込みを入れてくる。
――――哲平も俺も大して変わらないだろ。
半分以上を占めている欲望は言い訳を主張する。
すぐ見せてくれるようにはならないだろうと、この間で悟った。だから、時間を手に入れた。
ずるいのは分かってるさ。
だけど、笑顔を見せてくれるように、努力する。
CDは哲平が好きなものを集めてきた。いや、くすねてきたという方が正解か。
きっと、哲平の好きなものぐらい知っているだろう。好きなやつの好きなものなら、悪い気はしないだろう。
まずは、そこからだ。
今かかっているハイテンポの曲を聴きながら、遼平はバラード系の方がいいかな、と思った。

コツコツと窓を叩く音が聞こえて、助手席の方を見ると、不安そうな顔をした智也が顔を覗かせていた。ロックはあけておいた。けれど、遼平は腕を伸ばしてド アを開けた。
「やあ」
せめて明るく、そう思ったのに、智也は小さく頷いただけだった。
「おなかすいてる? 」
沈みこむそうになる気持ちに、渇を入れながら訊く。相手は気がのっているわけじゃないから、仕方ない。自分が仕切っていくしかない。
「あんまり……」
助手席のシートベルトを締めながら、智也は答えた。
「じゃあ、いいところがあるまで先行こうか? 」
問い掛けた遼平に智也の答えはなかった。
「じゃあ、行くよ? 」
重ねて訊くと、小さく頷く。
仕方ない、そう思いながら遼平はサイドミラーで後ろを確認すると、アクセルのペダルを踏んだ。

道はすいていた。車の流れはスムーズで、景色が流れていく。智也はずっと、窓の外を見ていた。
「いいなと思うところがあったら、言って」
答えを期待したわけじゃない問いかけに、
「はい……」
顔は窓へ向けたまま智也が小さく答えた。
不思議なもので、それだけで心がすっと軽くなってくるのを遼平は感じた。

結局、それから智也の声を聞くことができずに、海に着いてしまった。
道がすいていたこともある。どうせなら、智也が食べたいと思うものがあるところで止めたいと思った。そう思っていたら、もう海が見えていた。
もう三時近い。正直自分は腹が減っていた。
「次、何かあったら入るよ」
一応断りを入れた。
「はい……」
返事はさっきと変わらなかった。

結局、入ったのはファミレスで、けれど海の近くらしい内装はされていた。
「何にする? 」
遼平がかけた言葉に智也はメニューを見たまま何も答えなかった。
「適当にしていい? 」
「……キャベツとホタテの……」
メニューに視線を向けながら、今度は言いかけて口を噤む。
「ああ、分かった」
遼平はメニューを閉じると、オーダーを頼むためにボタンを押した。

共通の話題があるわけでもなく、ただ食欲を満たすだけの食事を終え、テーブルを立とうとしたとき、智也は自分の分は払うと言った。
借りは作りたくないのかと思ったけれど、遼平はそれを断った。割り勘にしたからといって、何も変わらない。
「いいよ、清算が面倒だから」
そんなことを言いながら、引け目はあると思った。今の状態でさえ、無理矢理連れ出していることにかわりない。
ただ、救われるのは、智也が海を見たいと言ったことだった。それだけは叶えてやることができる。


駐車場は比較的空いていた。
砂浜へ降りる階段が近いところを選んで車を止めた。
「着いたよ」
遼平の声に頷くと、智也はゆっくりドアを開けた。途端に潮風が鼻を掠めた。
車を降りて、砂浜へ降りて行こうとする智也の後を遼平は追った。人波に紛れてしまうほど、人がいるわけじゃない。迷子になるようなところではない。駐車場 を降りると、一面砂浜が広がっていた。
「海、好き? 」
追いかけて後ろから、声をかけた。
「別に」
返ってきたのはそっけない返事だった。
「どちらかと言えば嫌い。潮風は疲れるから」
意外なことを口にする。
「でも、海が見たいと言っただろ? 」
智也がちらっと遼平を見た。
「あなたといるところを誰にも見られたくなかったから」
まっすぐ見てくる瞳の色が冷たく感じた。
ずいぶん嫌われたものだな、と思った。それも、分からないわけじゃない。
「帰ろうよ」
着いて五分も経たないのに、智也はそう言った。

back | top | next

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル