瞼に智也の笑顔が浮かぶ。
遼平は意味もなく、寝返りを打った。
あいつも、哲平に惜しみない愛情を注ぐやつの一人だ。
だからといって、自分には関係はない。哲平の嫁になって家に出入りすることなんて絶対ありえないし、中学までならともかく高校に入ってから哲平 は友達を家には連れてこなくなった。自分から係わり合いをもとうとしなければ、もう会うことのないやつだ。

どんなやつか少し気になって、暇だったもんだからちょっと行動して、あまりに簡単に分かってしまった。
知ってどうするとかは考えていなくて、ただ、ふーんで済めば良かったことなのに、そういうことに限って気になったりする。
そんなことより、書かなきゃいけないレポートやら、バイトだなんだでサボっているサークルに出るとか、それこそ将来について、学校卒業したらどうするつも りなのか考えた方が絶対為になる。
なのに、やらなきゃいけないことほど、やる気にならない。
なんでそうなのか、そんなことが分かったら、ノーベル賞ものだろう。DNAの解析が進むなか、そのうち分かるのかもしれない。遺伝子何とかが影響を与え て、とか学会で発表さ れる日が来る のかもしれない。
そして、どうして気になるのだろう。
そんな気持ちも科学的に証明されるのだろうか。
瞼に張り付いた笑顔が消えない。

「くそっ!」
遼平は布団にもぐりこむと、下半身へ手を這わせた。待っていたように堅くなっているものを握って扱きあげる。
なんでおかずが女じゃないんだよ、そんな不満を心の中で呟きながら、せっせと望む高みへ導く。どこが感じるかなんて、自分が一番知っているのだから、たや すいものだ。
布団の中に熱がこもって、体が汗ばんできて、湿った吐息が布団の中に響いて、もう少しと思ったところで、智也の笑顔が変わった。
眉をひそめ、苦しげに少し口をあけ、黄水晶色の瞳は潤んでいた。
一瞬息が止まって、手の中のものはどくどくと震えた。
「はぁ――――」
特有の匂いに、遼平が感じたのは虚しさだった。


暇が人を殺すって言ったのは誰だっけ。
そんなことを考えながら、遼平はまた駅の改札の向かい側で待っていた。この間とは、少し違う階段からあがってすぐの花屋の前で、階段をあがってきたら、振 り向かなければ分からないところだ。壁のすぐ傍に花を見てる雰囲気で立っていた。明らかに作り物と分かる笑顔を貼り付けてやってきた店員は、なんだかんだ と説明していたが、煮え切らない遼平に呆れたらしく店の奥へ消えて久しい。
どうしてこんなことをしてしまうのか自分でも分からない。
ただ、あの笑顔が忘れられなくて、もう一度みたいと思った。
ざわざわとした話し声と階段をかたまりで歩いて来る足音が聞こえてきて、やっと来たかと小さくため息をついた。
団体が後ろを通り過ぎてから、そっと振り向いた。
見つかってしまうことは本意じゃない。
――――なんだ
違う集団だと分かって気抜けした。改札はひとつだから待っていれば絶対通るはずだった。
また、と思って視線を向ける。そんなことが何回か続いた。
きっとまた違うんだろうと思いながら、心の隅でもう来るだろうと思っていたりする。待ち人来たらずなんて言葉もある。待っているほど来ないもんだ。
けれど、先日はあまりにうまくいったものだから、段々怒りに近いものになってくる。
なんで来ないんだよ。
そう心の中では毒づいていた。

「ねえ、哲平」
そんな声が突然飛び込んできて、体が固まった。
ざわざわした話し声も大勢で歩く足音も聞こえなかったから油断していた時だった。
その声は智也だと、すぐに分かった。哲平も一緒だということも。ばれちゃまずい、そう思ってしばらく振り向くことができなかった。
ほとぼりも冷めたかと、そろそろと振り向くと二人が改札へ入っていく。見失ったら、お終いだ。そうそう待ちぼうけもしたくない。
人波の中改札の中へ入って行く二人を慎重に視線で追った。
方向が同じなら、少し離れた車両に乗って偶然を装うのも手だ。少なくとも最寄駅が分かる。
けれど、これからのことを考えれば、反対方向の方がいいと思った。

改札を入って少ししたところで、立ち止まって少し話をした後、別れたことにやった!と思う。
走ってスイカをかざし改札を抜けて、遼平は自分の家とは反対方向になるホームへ下りようとした。少し下りかけて、遼平は立ち止まった。
ホームへ下りてしまえば、視界は広がる。朝の通勤時間とは違って、人がまばらなホームは反対のホームからでも見つかりやすい。
二つある階段のどっちに下りたのか、それだけでも確認しようと遼平はゆっくりと階段を下りた。階段を下りきる手前で、智也の姿を見つけた。
電車の到着のアナウンスが流れて、遠くから向かってくる電車の音が聞こえてきた。
――――まずい
今、下りていくわけにもいかない。けれど、電車が着いて下りてきた人波にのまれてしまったら、乗り過ごしてしまう。
電車の先頭は、すぐそこまで来ていた。
遼平はゆっくり階段を下りると、あと一段というところで立ち止まった。不意に智也が顔を遼平の方へ向けて視線があった。
怪訝そうな顔を見せている智也の横を電車が過ぎていった。
丁度、車両は隠れ蓑になると思った。
「やあ」
遼平が階段を下りて智也に声をかけると、智也は車両に阻まれてよく見えない向こうのホームと遼平を交互に見た。

怪訝そうな顔を崩さない智也を「乗るんだろ?」と引っ張るような形で、遼平は電車に乗り込んだ。
第一関門突破。
まあ、うまくいったなと思った。
「あの……」
席は埋まっていて並んで立つと、智也が声をかけてくる。とりあえず、忘れられているわけじゃなかったと安心した。
「時間ある? 」
「え、あ、まあ」
はっきりしない答えをする。
「話があるんだ」
智也と二人で会うことは哲平には知られたくない。きっと智也もそうだろうと思う。
「何ですか? 」
智也の表情が不安そうなものに変わった。
「まあ、後で」
特に話すことなんてない。ただ会いたかっただけだ。
「家の近くでいいよ」
遼平が続けると、智也は少し口をあけて何かを言いたそうにして、けれど、そのまま口を噤んで下を向いた。
人見知りするのかなと思った。表情も声も、哲平がいるときとはずいぶん違うんだな、と思った。

back | top | next

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!