哲平はメニューを見ながら、あーでもないこーでもないと言っていた。その隣に座るやつは、メニューに視線を落としながら、困ったような顔をしていた。
「本当にいいんですか? 」
視線をあげ、不安そうに聞いてくる。
「全メニュー制覇なんてのは困るけど、バイト代入ったばかりだし、いいよ遠慮しなくて。哲平がいつも世話になってるんだし」
まあ、告白を聞いてしまった負い目もある。
声を聞いて、こいつで間違いないと遼平は思った。
「そうそう。暇な大学生の時間つぶしに付き合ってやるんだから、遠慮なんていらないよ」
メニューに視線を向けたまま、哲平が言う。
不安そうな視線を哲平に向けて、哲平を好きだと言ったやつは切なげな顔をした。見ている遼平の方が胸に痛みが走った。
好きなんだ、とはっきり分かる。
「名前、教えてくれる? 」
必要ないと言えばそれまでだが、なんとなく興味をもった。
「あ、智也です。最上智也」
はっとしたように、智也が遼平の方を向いて答えた。
光りの加減なのか、瞳の色が薄く見えた。琥珀色の瞳なんて形容がよくあるけれど、こいつの場合は黄水晶だなと思った。
「どっか、外国の血が入ってる? 」
髪の毛もきれいな栗色で、それは染めているとは思えなかった。
「さあ――――よく言われるんですけど、親とかに聞いたことはないです」
智也が首を傾げるように答える。
よく言われるのか――――まあ、口には出さなくても、思うやつは多いのだろうと遼平は思った。
「こいつはさあ、栄養が足りないんだよ。ほんと、食わねえんだから。弁当箱も女みたいだし」
哲平がメニューから顔をあげて不満げに言った。
「だから、食え!」
まるで、それが悪いことのように噛み付くように続けた。一瞬驚いたように智也がびくついた。
「別に悪いことじゃないだろ? 」
ハーフなんていうのは、美男美女の代名詞だったりする。別に色素が薄いからって、何も問題はない。
「からかうようなやつがいるんだよ。羨ましいんだかなんだか知らねえけど」
ふんと哲平は鼻を鳴らした。なにか嫌なことがあったらしい。
「そっか、ごめん。知らなくて」
遼平が謝ると、智也は口元を緩めながらかぶりを振った。
「いえ、いいんです。だから、どうこうっていうわけじゃないから」
から?
から――――何?
それでも、気になるんだろうな、と遼平は推測した。本人の気持ちなんて、所詮本人しか分からない。
「哲平、決まったのか? 」
話題を変えた。
「うーん。いいや、両方食っちゃえ」
哲平がメニューを閉じた。
遠慮なんてものはないだろうと思っていたから、それもありかなぐらいに遼平は思っていた。

オーダーの時、えっ? と思いながら、文句を言うのも大人げないかと遼平は言うことはやめた。テーブルに並べられたものを見て、何が両方なんだ? と思 う。
ぺペロンチーノ大盛りに、ガーリックトースト、カボチャのスープに、シーザーサラダの大に、ウインナ-の盛り合わせ。おまけに、デザートにチョコレートパ フェなんて頼んでいた。ばっちり、フルコースだ。これで、家に帰ってからの夕飯もばっちり食べるのだろう。
隣のキャベツとホタテの塩味パスタが小さく見えた。
なのに。
「食べてみる? 」
なんて聞いている。
「おう。くれくれ」
なんて答えたやつは、人様の皿にフォークを突き刺していた。
「結構、いけるじゃん」
とか言われて、自分のものを取られているのに、笑っていた。それって、哲平のパスタ好きを知っていて、あげるためにオーダーしたんじゃないかとまで思えて くる。
「兄貴、食わないの? 」
宙に止まったフォークで自分まで狙われそうだったから、
「食ってるだろ」
遼平はフォークにパスタをからませた。
同じ麺なら、ラーメンの方がずっと良い。かと言って、ファミレスでラーメンを頼む気にはなれなかった。
トマトとチーズの冷製パスタはそれなりに美味しかった。
だけど、気になる。
堂々と世間の視線に晒してはいるけれど、ちょっとデバガメ気分だった。
哲平がウインナ-をフォークで刺して、そのまま、ストレートに智也の口へもっていく。驚いた智也が仰け反りながら、哲平の方を見ると、哲平は食えという仕 草をした。
フォークで刺したウインナ-で智也の口をつついたりもする。仕方なさそうに智也が口をあけると、哲平が待ってましたとばかりに口の中へ押し込んで。まあ、 ウインナ-でフランクフルトじゃないから、口の中へ収まっちゃうわけだけど。
これって、間接キスか? とか思ってしまう。
普通同性同士にそんな目は向けなくて、苛めかって方を心配してしまうそうだけれど。なんとなく、智也が嬉しそうに見えたのは、色めがねで見ているからだけ じゃないと思った。
哲平は絶対に気づいていない。それが吉なのか凶なのか。


「ごちそうさまでした」
智也が頭を下げる。
テーブルには空の皿が広がっていて、哲平はチョコレートパフェを頬張っていた。
「いや、暇つぶしに付き合ってもらったんだし」
遼平は手を軽く振って気にしなくていいよ、という仕草をした。
滅多に見ることなんてできないものも見られた。
「それに、それくらい誤差範囲だよ」
智也の前にある皿を指して続けた。
「そうそう」
未だ、チョコレートパフェを頬張っている哲平が口を挟む。
「お前には、言われたくないよ」
不満げに眉をひそめてみたのに、哲平はどこ吹く風だ。実際、哲平に関しては仕方ないかと諦めている部分が多かった。

バレンタインデーのチョコレートの数も。
友人の数も。
親の愛情も。
それでも、生きていくためには何も困らない。
哲平にだって悪意があるわけじゃない。

ただ、レジに立って会計を済ませたときに、遼平はため息をついた。
これだけで、一日分の稼ぎがパーになっていた。

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