ニ、三度啄ばむように触れた唇は角度をかえて深くあわせてくる。舌で唇を撫でるようにして、そのまま差し入れるように入れられた舌で口内を撫でられる。
「ん……」
デールの首に回していた陸の腕は段々と腕に力が入らなくなってきて、背中に回されているデールの腕に体を支えられていた。
酔わされるという言葉は知っていたけれど、アルコールを飲んだこともなかったけれど、それはこんなことを言うんだろう、と霞んでくる頭の片隅で陸は思っ た。
舌を絡めとるようにされて吸われて、息が苦しくなっても離したくなかった。
このまま全てデールに預けてしまいたい。そう陸は思った。
けれど。
離れていく唇を止める力は無かった。
「陸」
声だけじゃない、望んだ人が呼んでくれる。抱きつけば抱きしめてくれる。
「また、明日来るよ」
別れの言葉にねだるように目を閉じると、そっと触れてくる唇はすぐに離れていく。
その後は。
「うん、待ってる」
そう返すしかできない。
デールが大切なのはノインだと分かっている。
顔が似てるから気になるだけの存在なのだと、頭では理解している。
仕事の後、以前のように小さな包みを持って訪ねてくるようになったデールが部屋にいるのは数十分だった。
「何か困っていることはないか?」
第一声はいつもそれだった。ゆっくり気遣うように言ってくれる。
「何も……ないよ」
陸がそう言うと、ほっとしたようで残念そうな顔をする。
「何か欲しいものがあったら買ってきてやるよ」
頭をくしゃっと撫でる。
「何もないよ」
デールを見上げて、目を閉じれば優しく唇が触れてくる。
一番欲しいものは買えるものじゃない。ぎゅっと体を抱きしめてその存在を感じる。
デールと話したいことがたくさんあって、言葉を覚えることにも集中するようになった。
マキが言った『なんでも思い通りになる』という言葉が時折頭を掠める。
結局自分がやっていることは、デールが言う上の人間の思い通りになっているということだと思う。
デールが絡んできたら、きっとどんな命令でも聞いてしまうだろう。連絡係でも何でもやってしまうだろう。そんな自分に疑問も感じる。けれど、気持ちはそん な疑問には関係なく膨れ上がっていく。
毎日デールが来てくれるのを待っていた。
ただ、仕事が休みの日だけは姿を見せてくれない。できるだけノインの傍にいてやりたいと以前デールは言っていた。その気持ちを理解できるし、困らせるつも りもない。
じゃあ、ここに来てることは?
ふとした疑問が頭を過ぎる時、陸はかぶりを振って疑問を打ち消した。
会いたい。そう思うから難しいことには蓋をする。
ただ顔を見せてくれただけで、積もっていた不安も切なさも消えてしまう。けれど、ドアを出ていったその時から、どこから来るのか分からない不安や切なさが 心を占める。
待っていることしかできないノインの気持ちが少し分かった気がした。
自分より辛いはずだと陸は思う。
この部屋に自分が開けられない鍵はない。その気になれば外で出ることができる。けれどノインは違う。



「ずいぶん、言葉が上手になったね」
デールが頭をぎゅっと抱いてくれる。
「そう?」
自分ではよく分からないけれど、すらっと言葉がでてくるときが多くなった。
「最初は正直聞き取りずらいところもあったし、分からない言葉もあったろ?」
「あ、うん」
分からなくて首を傾げると、デールが言い直してくれることもあった。初めの頃はテーブルで向かいあっていたのに、今はベッドで横に座っていた。腕が触れて いて肩に少し頭を乗せて、顔をあげればキスをしてくれる。
陸は少しづつデールが居る時間が長くなっているのを感じていた。
いいのかな?
そう思いながらも陸はあえて言わなかった。
「上から何か言われてるのか? これからのこととか」
「何も」
最初に二週間で言語を覚えろと言われた、それだけだった。もうすぐその期限が来る。初めはどうすればいいのかまったく分からなかったのに、スムーズに言葉 がでてくるようになったし、簡単な日常会話ならできそうな気がする。それは、デールと話がしたかったからだ。
同じ波長を持っているから、同じ人を好きになる?
そんなことがあるのかどうかわからないけれど、ノインのように、自分も思い通りに操られるようになるのかと思うと悔しいけれど、現実惹かれていく気持ちを 止められない。
もしもデールが上と繋がっていたら――――そんな考えが頭に浮かぶときがある。
デールのことはよく知らない。自分が見るデールが全てだった。
「陸まで……」
肩も背中も抱きしめてくれる。これが演技だとは思えない。
「大丈夫だよ、僕」
たとえ、操られているのだとしていいや、と思ってしまう。腕の中にいるとほっとする。この安らぎを他では知らない。
してくれるのはキスだけだった。
「また、明日来るよ」
同じ言葉とともに熱くなった体を残して、デールは部屋を出ていく。

――――仕方ないよ
そう思いながら、熱を自分で下げるのはいつものことだった。一瞬の高揚とその後の虚しさはあまりに落差が大きい。
一度でいい。
一度でいいから、高まる熱を共有できたらいいのにと思う。
それはいけないことなのかな――――何度も振り返りながら手を振ってくれるデールを見ながら陸は思った。

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