目の前の小テストは行進でもしたくなるような点数が並んでいた。
「いったい、どうしたんだ」
担任が呆れたような声を出す。
陸は無言のまま頭を垂れていた。
取りたくて取った点数じゃない。勉強しても頭に入らないのだから仕方ない。
「この間の中間は良かったじゃないか」
担任がため息をつく。
中間は全教科三番以内に入っていた。隆太郎は悔しそうに答案用紙を投げていた。完璧に近い点数が並んだ答案用紙は陸には意味のないものに見えた。

「冬休みはどうするんだ?」
聞かれても予定は何もない。
「少し休んだ方がいいのかもな。帰っていいぞ」
担任は答案を束にして渡してくると、机に向かった。

教室に戻ると、隆太郎が椅子をシーソーにして手持ち無沙汰にしていた。
「陸〜」
けだるそうな声を出す。
「何?」
陸は自分の席に行くと、鞄に教科書を詰め始めた。
「お前がそんなだと張り合いないんだけど……」
隆太郎が不満げに零す。
「ハワイを狙う絶好のチャンスだろ?」
このままでいけば次のテストで隆太郎に惨敗するのは決定的だ。
「そうか!」
勢いよく返事しか隆太郎が
「でも、それじゃあ面白くないんだよ。一問二問、一教科二教科の厳しいところで勝負すんのが楽しいんじゃん。最初から勝つって分かってる勝負ほどつまらな いものはない よ!」
断言する。
その気持ちは分かると思う。以前は自分もそれが楽しかった。
「簡単に勝てると思うわけ?」
背中を向けたまま隆太郎に答えた。正面向いて言える言葉じゃなかった。
「おっ、やる気になった?」
「やる気がないわけじゃないよ」
ただ、頭に何も入ってこない。脳みそがすかすかのスポンジになったみたいに感じていた。
「じゃあ、なんだよ。海姉ちゃんに邪魔でもされんのか?」
「いや」
姉の海とはあまり顔を合わせない。海だけじゃない。家に帰れば自分の部屋に閉じこもっていることが多くなった。食事の時間くらいしか家族と顔を合わせな かった。
「じゃあ、何だよ。悩みがあるなら相談にのるぜ。俺は頼りにならないかもしれないけど、うちの父ちゃんならなんとかしてくれるかもしれないぞ」
「なんだよ……」
陸は思わず笑いがでた。自分を自分で否定してどうするんだと思う。
「確かにそうかもしれないけど」
隆太郎の父親は県議の秘書をしているらしい。時期候補でもあるらしかった。
「肯定すんなよ! 俺だって少しは役に立つかもしれないぞ」
隆太郎が自分から言ったくせに、文句を言う。
「そうだね」
また、以前の生活に戻っただけだ。その時はそれなりに楽しかった。
「お前、熱でもあんの?」
隆太郎が不思議そうな声を出した。
「なんで?」
隆太郎の方を振り返ると。隆太郎は真剣な顔をしていた。
「お前、最近変だよ。すげえ機嫌いいと思ったら、めちゃくちゃ落ち込んだ顔してたり」
「……そうかな」
あまり顔には出さないようにしているつもりだった。
「俺にも言えないこと?」
隆太郎が顔をうかがうようにする。
「……何でもないよ」
忘れろと大輔は言った。
「帰ろ」
陸は鞄を持って隆太郎に教室の入り口を示した。
人の気持ちなどお構いなしに時間は過ぎていく。あと一週間で冬休みだった。


家に帰って陸が机に座ってぼんやりしていると、
「陸〜」
と居間から呼ばれた。
程なく母が部屋に来て、電話を渡してきた。
「友達みたい」
母は少し小首を傾げて不思議そうな顔をしていた。
――誰だろう
電話をかけてくる人に心当たりは無かった。
「もしもし?」
受話器に向かって言い、
「俺、分かる?」
返ってきた声にも小首を傾げた。
「誰?」
本当に心当たりがなかった。
「もう、俺のこと、忘れたのかよ」
と不機嫌そうな声の後、
「環だよ、環!」
名前を連呼する。
「あ……」
電話を通すと声が変わる。あわせてしばらく聞いていない声でもあれば、電話をかけてくる用事も思いつかないやつだった。
「電話番号教えたっけ?」
記憶にはない。
「メール送ってもなしのつぶてだから、大輔に聞いたんだよ」
――え
胸がきゅと縮んだ。
「……あ、メール送ってくれたんだ」
パソコンはやっていなくて、当然メールも見ていなかった。
「じゃあ、なんのためにメールアドレス交換したんだよ!」
そう言う環の言葉はもっともだと思い、
「ごめん、今すぐ見てみる」
陸が椅子から立とうとすると、
「もう、いいよ」
呆れた環の声が聞こえた。
「ごめん」
まさかメールをくれるとは思っていなかった。
「まあ、いいさ。クリスマス、どうせ暇だろ?」
当然だろ、というように環が聞いてくる。
「うん」
冬季講習もこのままだと受けなくて良さそうだった。
「ちょっと、付き合えよ」
それは、命令に近い口調だった。
「別に、いいけど」
家にぼんやりしていることになるのなら、外に出た方が気が紛れるかもしれない。
「じゃあ、空けとけよ。また・で・ん・わ・するからさ」
「あ、うん」
電話を強調されたことに、ちょっと笑いがでた。
「ごめん。メールって普段しないから」
陸は言葉を付け加えた。いつメールをくれたのか分からないけれど、返事を待っていてくれたに違いない。
「まあ、その時に借りは返してもらうよ」
「うん」
陸は素直に返事していた。
どうやって借りを返すのか、そんなことはどうでも良かった。全てがどうでも良かった。

back | top | next

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル