開けられているカーテンから見える空は段々明るくなってきて、紫色から水色に変わっていった。
陸はベッドの中で身を固くしていた。

大輔に言われた言葉が胸に痛かった。
代用――そんなことは思ったこともない。
けれど、大輔がそう思ったのかと思うと苦しかった。
そんなことはない、とまた自分も否定できなかった。
違うと言える根拠がなかった。
初めのきっかけは、似ていること、だった。似てるなんてもんじゃない、瓜二つで、それは自分と似ていたやつのことを考えれば理解できる。
もしかして大輔は帰ってきてくれるんじゃないかそう思って、でも仕事で呼び出されたのだろうから無理だろうとも思う。夜中と言われる時間だったのだから、 そうとう急な ことだったのだろうとも思う。
まるで計ったようにかかってきた携帯電話に文句は言えなかった。
終わり?
そんなのは嫌だ。
じゃあ、どうする?
答えは頭に浮かばない。
じゃあ、諦める?
そんなのは嫌だ。
いくら考えてもどうどう巡りだ。

「変わらないって言ったのに……」
不満が口をつく。
「変わらないって言ったのに!」
経験した自分だからこそ現実だと分かるけれど、大輔に話したことは誰にでも信じてもらえることではないと思う。
けれど、自分の話を最後まで聞いてくれて言葉通り大輔は信じてくれた。
最後に抱きしめてくれた時も感じる暖かさは変わらなかった。
「大輔さん……」
胸が痛かった。
どうすれば良かった?
記憶はないって嘘を突き通せば良かった?
けれど、その嘘はばれていたようで、大輔は信じてはくれないだろう。
好きだから嘘はつきたくなかったから全て話した。
「代用なんかじゃない」
目の前にいなければそうはっきり言えるのに、目の前に居たら言える自信はなかった。
一緒に次元を越えてきてしまったんじゃないかと思えるその姿を見ながら、違うという言葉は途中で消えていった。

布団が温めてくれているはずなのに、身体は冷たく感じた。太陽の光が部屋の中に差し込んできても、部屋の空気は冷たく感じた。
突然かんかんかんと階段を上がる音が聞こえてきて、もしかしたらと思ったけれど、その足音は部屋の手前で消えた。
一人でいることが寂しかった。
「帰ろうかな……」
きっと待っていても大輔は帰ってこない。
我慢できないとか、離さないとか言ってくれても、大輔に余裕はあったのだと思い知った。
大人だから?
振り向きもしなければ、遠ざかる足音に躊躇いは欠片もなかった。
のそっと起き上がると、陸はぶるっと身震いをした。タイマーをかけていたエアコンが稼動しなくなって久しい。
制服に着替えてベッドを整えて鞄を持って部屋を出たら、コンロの上の土鍋が目に入った。
お腹がすいたら食べろと言われていたそれの蓋を開けると、ちょうど一人分くらいの量が残っていた。
それは、大輔が作ってくれたものだった。
「食べようかな」
お腹がすいてはいないけれど、空っぽな気はした。
食器かごからスプーンを取って土鍋を持つと部屋へ戻った。
テーブルの前に座って
「頂きます」
陸は手を合わせた。
スプーンを差し入れると冷たいご飯も卵も硬くなっていた。一口食べると、涙がぽとっと土鍋の中に落ちた。
味も舌触りも昨日大輔と一緒に食べたものと同じだとは思えなかった。
一口食べる度に涙が落ちて、口に入れたものはしょっぱく感じた。
食べ終わると、土鍋とスプーンを洗って元あった場所に戻した。美味しくはなかったけれど、お腹は少し満たされた。
外に出て鍵をかけて、陸はその鍵を掌に取ってしばらく見ていた。それは、大輔にポストに入れておけと言われていた。
「できるわけないじゃん」
手から離したくなかった。
「大輔さんが悪いんだ」
取り上げないから――。
陸は鍵をぎゅっと握ると大輔の部屋に背を向けた。


もしかしたら――そんな気持ちは駅に着くまであって、前にも同じ気持ちでいたことがあったと思った。早紀から合鍵を返してもらった時も道の途中で大輔に会 えないかと思った。
あの時は家の近くで待っていてくれた。同じことがあるとは思わないけれど期待してしまう気持ちはあった。
そんな気持ちは空しく空振りに終わり、家で迎えてくれたのは
「あら、早かったのね」
そんな母親の暢気な言葉だった。

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