心臓がどくんどくんと鳴って、荒い息遣いが身体を揺らす。
「違うじゃん……」
動けなくて身体は大輔に預けたまま陸はぼやいた。
「本番はこれからだ」
大輔は身体を離すように立ち上がると、ティッシュで手を拭い、テーブルからケーキが載っていた皿を取った。
「片付けておくから、先にシャワーを浴びておいで」
言いながら口元を緩める。
そのままキッチンの流しに皿を置くと戻ってきた。
座ったままの陸を見て、
「どうした?」
大輔は不思議そうな顔をした。
「……立てないよ」
こんなにしたのはあなただ、と陸は文句を言いたかった。
「じゃあ、待っていろ。抱いて連れていってやる」
カップを持つとキッチンへ運んでいく。
「いいよ」
陸は大輔の後ろ姿に向かって答えた。
「遠慮することないだろ?」
振り向いた大輔に首を横に振ると、
「大丈夫だよ」
陸はテーブルに手をついてやっとこ立ち上がった。
また、あのお姫さま抱っこをされるのかと思うと複雑な気持ちになる。
抱き上げられるのは確かに気持ちよくて嫌いなわけではないけれど、女みたいに思えて嫌だと思う。好きな相手は確かに同性だけれど、甘えたいわけじゃない。
「無理するなよ」
大輔の心配そうな声を尻目に、下着ごとスエットを床に落とすと陸は大輔の視線を少し気にしながら浴室に入った。
同じ男同士なのに大輔に見られるのは同級生達に見られるのとは違った。
「すぐ、これだ……」
さっき出したばかりなのに、いつもは下を向いているものが頭をもたげる。
二人きりだと思えば余計に、声が向けてくれる視線が触れる手が感情を煽ってくる。
「どうなっちゃうんだろう……」
手でやられるだけでも自分でやる時とは比べ物にならないほど気持ち良かった。身体を寄せて居る時は感じなかったのに、一人でいるとどきどきする気持ちは同
時に不安に繋がった。
陸はごくりと喉を鳴らした。
「大丈夫だよ」
相手は大輔だから信じればいい。
――それに
身体を繋げるのはずっと望んでいたことだった。
陸がシャワー栓を開けると、飛沫をあげたものは温かかった。
なんで?
疑問に思い、湯沸かし器はキッチンにも繋がっていることを思い出して、大輔が先に出していてくれたのかもしれない、と思った。
――ほら、大丈夫だよ
大切に思ってくれていることを色んなところから感じる。
陸が身体を拭いて浴室から出ると大輔が奥の部屋から来て、
「俺もすぐ行くからベッドの中へ入っていろ」
と言いながら頭を撫でてくる。
「ん」
返事をして、ちらっと大輔を見て、陸はすぐに顔を伏せてしまった。
今更恥ずかしがっている自分を変だと思う。
「な」
大輔に念を押されて頷くと、陸は大輔にバスタオルを渡した。
胸のどきどきは激しくなっていくばかりだった。
「陸?」
大輔が顎に手をかけて顔を上に向かせる。
「どうかしたのか?」
不思議そうな顔を見せる。
「ううん」
ただ何となく動く気になれなくて、大輔がいる傍にいたかっただけだ。自分でも不思議だと思う。この人の傍にいると安心する。
「一緒に、シャワー浴びるか?」
大輔が意味深な笑みを浮かべてきて
「ううん」
陸は首を横に振った。
「じゃあ。そのままで居ると風邪ひくだろ?」
してくれるのは心配だ。
きっとベッドの中に入ったのを見届けてからシャワーを浴びるつもりなのだろうと思った。
ちゅっと唇に優しく触れてきて。
「な?」
もう一度念を押す。
「うん」
陸は頷いて大輔に背を向けた。
一緒にシャワーなんて浴びたら、きっとそれだけでは済まなくて、また立てなくなってしまいそうな気がする。それこそ、きっとお姫抱っこされてしまう。
まだそれには少し抵抗があった。
ベッドの中に身体を滑らせると、中はふかふかで温かかった。冷たいと思っていたから少しびっくりして、ほのかに馴染みのある匂いを感じた。
大輔の匂いじゃない。それは、太陽の日の匂いだと思った。
「あったかい……」
太陽の匂いは身体を解してくれる。
「ほら……」
こんなに大切にしてくれる。
大切に思っていると言ってくれた言葉そのままに気持ちを感じられた。
思っている以上のことをいつも返してくれるこの人に自分はいったいに何ができるのだろうと思う。
「大好きだよ……」
これほど好きになった人はいなかった。
太陽の光より暖かくて、傍にいるとすごく安心できて、どんな我がままを言ってもそれをちゃんと受け止めてくれて納得できる形で返してくれる、いつだって。
「大好き」
言葉が口をつく。
「大――」
言いかけた言葉は止まった。
「何をぶつぶつ言ってるんだ」
布団をはがされたその先に大輔がいた。
「大好き……」
胸が痛くなってくる。
「大輔さんが……」
伸ばした腕に応えるように覆いかぶさってくる。
「ずっとそうあって願いたいね」
大輔はふっと笑うと唇を塞いでくる。
肌を直に感じて唇を確かめあって、どきどきは下半身の疼きに変わり不安はどこかへ消えてしまった。
――好き
どこから沸いてくるのか分からない感情が胸の中で無限のように広がる。
「今日は許してやらないからな」
大輔が囁く。
「ん」
許してなんて思った事はない。いつだって求めていたことだった。
「大輔さん……」
背中を撫でた。それは硬くて大きくて自分のものとは全然違う。
「お前は俺のものだ……」
唇が肌を啄ばんでいく。
高揚していく気持ちと共に、陸は身体が熱くなっていくことを感じていた。