人の気持ちなどお構いなしにバイクは爆音を響かせながら進んでいく。
どうしたら逃げられる?
恐怖が大半を占める頭の隅でそう思う。
考えられるのは信号で止まったときに飛び降りることぐらいだと陸は思った。
けれど、そんなことはお見通しだと言ったように信号で止まってはくれない。
行けると思ったらしいときは速度をあげ赤信号でも突っ切っていき、大きな交差点では先を見越したようにスピードを落とし、けれど、急にエンジンをふかした
りと体を揺らされ
て、体のバランスを取るのが精一杯だった。
ひどく長く思えた時間が実際はどれくらい経っていたのかは分からない。
バイクが止まったとき、張り詰めていた気で疲れ果てていて、逃げなきゃと頭では思うのに体は動かなかった。あっという間に周りは気味の悪い笑顔に囲まれて
い
た。
ぱっと見た感じ七、八人はいた。
手を引かれて、陸は自分の意思とは関係なくバイクを降ろされた。
乱暴にヘルメットを取られ引っ張られると、目の前に大男が立ちはだかった。
「好きにしていいんだって、な」
にやりと笑う。
金髪に近い髪が逆立つようにとがっていて、まるで鶏の鶏冠みたいだと思った。眉毛もないのかと思うほど薄くて気味が悪い。だぶっとしたズボンからパンツが
見えてい
て、ぱっと見ただけで違う人種だと思った。
「お望みどおりしてやるよ」
たぶんこいつが頭なんだろうと思う鶏冠があごをしゃくる。
たちまち捕まえられて、陸は身動きがとれなくなった。ご丁寧にタオルを口に挟まれて声もだせなくなる。
ただ、大声をあげたところで助けはこないだろうと思った。
目に入るのは白く大きな建物と周りを囲む高そうな植木で、ここへ入ってきた元の道路も見えない。もうすでにやつらのテリトリーなのだろうと思った。
好きにする?
陸はこいつらとそんな約束をした覚えはなかった。
ただ、何を言っても分かってもらえそうにない。
「ほおら、こっちに来るんだ」
声と共に背中をどつかれわずかな痛みが背筋をあがった。
薄ら笑いを浮かべながら、一人が指差す方には小さな家があった。離れのようだと思った。きっと家人はいない。
「おらおら、しっかりしてくれよ」
またどついてくる。
捕まえられているのだから動くことはできなくて、それを分かってやっているはずだ。
あの中に入ってしまえば、それこそこいつらの思いのままなのだろうと思う。
――大輔さん
守ってくれると言った人はここには居なくて、こんなことになっているとは知るよしもないだろう。
「歩けない? じゃあ仕方ないな」
歩けなくしているやつらがそんなことを言う。
「引きずっていってやるよ」
せせら笑いが辺りを包む。
「ちょっと待て」
鶏冠が声をかけてくると、やつらは止まった。
「何すか?」
答えた声は少し不満げだった。
「ただ、ぼこぼこにするのは勿体ないよなあ」
鶏冠が細い目を更に細める。
「どうするんすか?」
周りのやつらは怪訝そうな顔をした。
「少し遊ばせてもらおう」
鶏冠がいやらしくにやっと笑った。
その目に陸はぞくっとした。
遊ぶ?
「そっちの方がおもしそうっすね」
陸の手を捕まえているやつが答える。
「丁寧に部屋まで運んでやれ。そんで、動けなくなる程度に体を痛めつけろ。顔には手を出すなよ。せっかくの綺麗な顔はそのまま拝みたい」
「了解」
声と共に陸はぐっと手を引かれた。
「どうされたい?」
陸は家具などは何もない畳の部屋の中央に体を放り投げられて、周りをぐるっと囲まれた。
薄笑いを浮かべた顔が仮面のように並んで見下ろしていた。
鶏冠は一人少し離れたところで壁を背に見下ろしている。
逃げる術は無かった。
一人が陸に手をかけようとしたとき、陸は咄嗟に体を丸めた。
「なんだよっ」
後ろから襟を掴まれて、体を揺すぶられる。
環たちなら仕方ないと思うところはあった。
けれど、こいつらにはそんなことは思えない。
良太が話したんだろうか?
けれど、こいつらと良太が友達だとも思えなかった。
脇をがんと蹴られて痛みが走る。
好きにはされたくない。
けれど、どうすればいい?
足を蹴られ、肩を蹴られ。
「おい、こっち向けよ」
そんなことを言われて向けるわけがない。
汚い言葉を浴びせられ痛みは次々と場所を移動して、体を揺すぶられて頭がふらふらしてくる。
いつまでこうしていればいいのだろうと思った。
飽きて放り投げられて、けれど、その先に鶏冠が待っている。
遊ぶ?
その意味を陸は分かりたくないと思った。
思い当たることがひとつ。たぶん、その予想はあっているのだろうと思う。
――嫌だ
たとえ、大輔に相手にされないとしてもあんなやつに体をおもちゃにされるのは。
でも――。
「ほら、こっち向けよ」
手をあごの下に入れられて顔を持ち上げられた。
体を開かないように力を入れていても、それはいつまでも続かなくて。
「んっ……ん」
嫌だと言いたくても、声はでない。
「何? 目が潤んでるじゃん」
可笑しそうに笑う。
「そろそろいいだろ」
鶏冠の声がした。
「んじゃ、剥きますか」
今まではちょっとからかっていただけなのだと分かるほど、体は簡単にひっくり返された。
「い……っ」
足を振り回しても簡単に避けられて空を蹴る。
「やっ――」
体を捻ろうとしても、すぐに押さえつけられて上を向かされた。
「その前に――」
腕を掴んでいたやつが、違うやつに代われという仕草をする。
「逃げられないように――」
そいつは違うやつに代わると陸の足元に立った。
――何?
もう、動けなかった。
体中が痛くて、力が入らない。なのに、いくつのも手が体を押さえる。
逃げられるはずがないだろう、と思う。たとえ隙を見て逃げたとしても、入り口たどり着くまでにきっと捕まってしまう。
足元に立ったやつはは陸をちらっと見てにやっと笑うと足を振り上げた。
え? と思った瞬間、陸は足首に激痛を感じた。
「っ……」
「これで歩けないだろ?」
痛みで真っ白になる頭に、せせら笑うような声が聞こえてきた。
「ほら、大人しくしろよ」
声が降ってくる。
痛みで微動だにすることなどできなかった。
「いい子だ」
笑いながら、裂くようにシャツを剥がす。ぴっと甲高い音がしてぶちっとボタンが弾け飛ぶ音がした。突然空気に晒されて肌はあわ立った。
嫌だと思っても体は動かなくて、声も出せない。
「こっちも外してやろう」
いつの間にか鶏冠が頭のところにいて、口にはめられていたタオルを外す。
「いや……だ……」
陸が叫ぶと、鶏冠は笑った。
「そうか。今度はいいことをしてやるからな」
頬を冷たいごつごつした手がなぞる。
背筋に悪寒が走ってその手でこれ以上さわって欲しくないと思っても体は動かなかった。
痛みが体中を反響するように這い上がってくる。
「いや……」
自分の体の上を這い回る感触と声があった。
「や……」
這い上がってくる痛みに神経は支配されて、陸の意識は段々と遠くなっていった。