一週間というのは長いようで短い。
環の言葉を大輔には言わず大塚さんに告げたことで、大輔から何か言ってくるかもしれないと陸は思っていけれど、結局何もなく、その後大塚さんが姿を見せる
こともなかった。
まったくすべてが切れてしまったようだった。
その中で時間だけが淡々と過ぎていった。
環に言われたその日は、心の中とはうらはらに、嫌になるくらい空は青かった。
ただ、環に呼び出されていることの恐怖心は不思議と無く、もうどうにでもなれと陸は思っていた。何もかもどうなってしまってもかまわないと思った。
大輔に受けいれてもらえない自分に価値を見いだせなくて、消えてしまってもいいとさえ思った。
なのに。
改札で待っていたのは環ではなくて大輔だった。
ホームの階段を上がったところで大輔の姿が見えて、陸は足が止まった。
もう会うこともないだろうと思っていた人だった。
期待していたときには来てくれなくて、どうしてこんな無防備なときにいるのだと思う。
環の姿は見えなくて、それは当然だとも思えた。
大輔がいるということは、環がしゃべったということだ。
大塚さんに嘘をついたことがばれたということだった。
大輔が守ると言ってくれた言葉通りに、環と話をつけてくれたということなのだろうか、と思う。というか、それ以外に考えられなかった。
どうしよう、と陸が戸惑っていると気づいたらしい大輔が視線を向けてくる。
いつもは気づいたときに笑顔をくれるのに、表情は硬いまま変わらなかった。
近づいてくる大輔を陸はぼんやり見ていた。
「今日、何かあるのか?」
目の前に立った大輔が難しい顔で問いかけてくる。
知っているはずだった。偶然ならあまりに偶然すぎる。
「……ちょっと……」
すぐにでてくる言い訳はない。
「今、時間あるか?」
大輔の問いかけに。
うん、と答えていいものか陸は迷った。
もしかしたら本当に偶然で、大輔がいるからと環は姿を見せられないのかもしれない。そうだとすれば、この状況は大輔にちくったのかと言われても反論はでき
ない。
「ちょっと来い」
何も言えずにいる陸に痺れを切らすように、付いてくるようにと大輔はあごで示した。
陸は動けずにいた。どこかで環が見ているのかもしれない。環たちにとってはつまらない時間だっただろうけれど、約束を守ってくれた。なのに、自分が約束を
破るわけにはいかないと思う。
二三歩先に行った大輔は陸が付いてこないことに気づいて、小さく息を吐くと戻ってきた。
「お前、俺に言ってないことがあるだろ」
呆れたような声を出す。
そこで答えたら認めてしまうことになる。
「お前は――ホント頑固だな」
呟くように言うと、大輔は肩に腕を回してきた。
――なんでこんなことするの?
回されたぬくもりにぼやきがでる。
抱えるようにされて陸は足を前に出した。
もう会えないと思った人の腕の中に自分がいた。この人には逆らえなくて、連れていかれるまま足を前に出し体は前に進んでいく。
大輔が止まったのは、少年課の隣の会議室だった。
陸は毎日通ったことが懐かしく思い出された。
陸が大輔を見上げると、大輔は中へ入れと目線で示した。
一瞬ためらって、けれど大輔がいてくれるからと思い陸はドアを引いた。
部屋をそっと覗いてみると、例のメンバーが揃っていて、机に突っ伏したり、机に肘をたてていたりと行儀が良い座り方だとは思わないがみんな静かに席につい
ていて、それが不気味だった。
大輔に背中を押されて、陸の体は部屋の中に入り、後ろで大輔がドアを閉めた。
怠惰な空気の中一様にけだるそうに陸の方へ視線を向けてくる。
環は部屋の一番奥で、椅子に背をあずけふん反り返っていた。
環の向かいにいる良太だけはにこっと口元を緩め大人しく座っている。
どうしろと言うのだろうと陸は思った。
しばらく沈黙が流れて。
「本当に好きにしていいんだよな――」
けだるい声がどこからか上がった。
ここで?
何をするというのか。
「ああ」
答えたのは環だった。
「ただ――」
次に聞こえた声で、先に声をあげたのか誰かわかった。
机に突っ伏すようにして気だるい視線をなげてくる。その視線と陸は目があった。
「話によっちゃ考えてやってもいいけど」
面倒そうに話す声がそれはいい話じゃないだろうと思える。
陸は喉をごくりと鳴らした。
「いいよ――」
ぼそっと陸は答えた。
面倒なことはさっさと終わらせてしまいたいと思う。
大輔の横に立っていることさえ辛かった。
優しいこの人はそれが胸に痛みを与えることだと知らずに優しくしてくる。
強い痛みを感じれば弱い痛みは感じなくなるものらしい。ならば、叩きのめされれば切ない胸のうちは少しは和らぐかもしれない。
「好きにしていいよ」
陸は答えを繰り返した。
最初からそのつもりだった。
大輔に会ってしまったことが予想と外れていたことだった。
がたんがたんと椅子が鳴り、机に突っ伏していたやつらは一斉に顔をあげた。気だるい雰囲気を持っていた空気が一瞬で硬いものに変わり、一様に陸に鋭い視線
が集まった。
「はん!」
一人だけ視線を外し環が呆れたような声をあげる。
そして、部屋に響き渡るような大声で笑い始めた。
「環っ!」
大輔の叱責が、環の笑い声に重なった。
「あんたが思うほど、こいつは柔じゃないよ」
笑いながら環が視線を大輔に向ける。
大輔から漏れたため息が陸の耳に入った。
大輔がかばおうとしてくれたのに、それを陸は反故にしてしまったらしい。
けれど、陸にすれば大輔にして欲しいのは保護じゃなかった。