「で?」
遼平が先を催促する。
テーブルの上には、鶏のから揚げに八宝菜、春巻きにサラダが並んでいて、小さなモンブランがちょこんと彩りを添えていた。
哲平は話が終わった後、斉木の家へ行くと出ていった。
そして、まるで打ち合わせでもしていたみたいに、しばらくすると遼平が帰ってきた。
遼平は哲平が取り上げたという携帯を持っていて、哲平が帰って来いと電話をしたらしい。
「知りたい?」
智也が聞くと、
「そりゃあ、哲平が何を言ったのかは気になるさ」
遼平が早く話せとばかりに催促する。
遼平が家を出て行ってからのことを話していて、哲平と交わした約束を遼平は気にしてくれたらしい。
「でも、教えないのも約束だから」
哲平的に遼平には知られたくないらしい。
「それで、お前はいいの?」
遼平が探るように見てくる。
「うんっ!」
智也は元気に頷いた。
それは、まったく文句のない約束で。
ただ、それを守りきれるのかは正直ちょっと自信はなかった。
「なら、いいけど」
遼平はどこか釈然としない様子だった。
哲平曰く、遼平にやきもきさせたいんだそうで、少しぐらいは哲平の望みを叶えているのだろうかと智也は思った。
「食べたら、風呂入って、寝るか?」
遼平が聞いてくる。
「うん」
智也が頷くと、
「見たいテレビとかないのか?」
一応気にしてくれたみたいだけれど、
「ううん。ないよ」
時間が止まることはないから、テレビを見るなんてもったいない。
「二人で寝るにはベッドは小さいかもな」
今度は心配そうに言い、
「布団敷こうか?」
と、聞いてくる。
「一緒に寝ちゃだめ?」
せっかく一晩一緒に過ごせるのに、別々なんてもったいない。
「いや、ダメってことはないさ」
遼平は否定はしなかったけれど、なんだか歯切れが悪い。
「嫌なの?」
智也はなんだか不安になった。
哲平が許してくれたことで近くなったと思った遼平との距離がまた少し離れていく気がした。
「いや、」
遼平は言葉を留めると天を仰ぎ、
「なんだか一度に問題が解決しちゃうとかえって不安になるんだな。お前はホントに俺でいいのか?」
遼平が、今度はまっすぐ見てきた。
「そう何度も言ったよ」
数え切れないくらい遼平のことを好きだと言った。一緒にいたいとも、会いたいとも。これ以上何を言えばいいのか分からない。
遼平が頭を振る。
「状況が違うだろ。哲平の気持ちを確かめたか?」
聞かれて、
「うん」
智也は小さく頷いた。
「哲平は大切な友達だって言ってくれたし、僕も哲平を大切な友達だと思う」
実は、お願いと称する約束を哲平が言った後、あんまり自信はないから期待しないで、と智也が答えたら、『じゃあ、俺にしとく?』と哲平が言った。すぐに
冗談だよと返してきたけれど、もしかしたら、と思いはした。
けれど。
哲平のことが大好きだった。今でも大好きだけど、その気持ちは確実に違う方向を向いていた。
「それで、お前がいいのなら」
何か釈然としない感じで遼平が言う。
「遼平さんは?」
お前がいいのなら――遼平はそう口癖のように言うけれど、それは『妥協している』というようにも聞こえる。好意を信じないわけではないけれど、人に聞い
てばかりでなく、本人はどう思っているの? と言いたくなる。
「俺?」
聞き返すようにして、遼平が席を立った。
「どこに行くの?」
せっかく二人きりで過ごせると思っていたのに、予想しなかった行動に智也は不安が膨らんだ。
けれど。
近づいてきた遼平は後ろに回ると、抱き込むように腕を回してくる。
「今すぐにでも、ベッドに押し倒したいさ」
耳元で囁きながら、頬を摺り寄せるようにしてきた。
「欲しいのは体だけ?」
遼平の答えはあまりに即物的だった。
「全部」
唇が首筋を伝う。
優しく触れられて、体がぞわっと粟立つ。悲しいくらい簡単に、遼平の手の中へ落ちていって、他のことは何も考えられなくなる。心も体も。
「……全部あげたら、何をくれる?」
智也が聞くと遼平の動きが止まった。遼平は考えている風で、すぐに答えをもらえると思っていた智也はがっかりした。
――全部くれるわけじゃないんだ
そう期待していたのに。
「どうしたらいいのか分からないな」
遼平がぼそっと言う。
「全部くれないの?」
自分は欲しいと言うのに。
「そんなもん、初めて会った時からお前のものだ。ちょっと遊んで捨てる気持ちなら、あんなことしないさ」
遼平がぎゅっと抱きしめてくる。
ホント?
でも、疑うことなんてカケラもない。
いつだって気にかけてくれて、自分が思う以上の気持ちで答えてくれる。
「ずっと僕のこと見ていてくれる?」
それが、哲平との約束だった。
好きなやつを全部遼平に取られると言った哲平は、お前で最後にしてくれと言った。絶対に遼平を放さないでくれと言った。
「ああ、だから、後で迷惑だなんて言わないでくれよ」
遼平の熱い息が首筋にかかる。
迷惑?
会う度に好きになる。知る程に離したくなくなる。だから、そんなこと思うはずがなかった。
「うん」
智也はほっとした。
哲平との約束は果たせそうだと思った。
カーテンの隙間に、霞んだ月が見えていた。
ベッドがぎしっと音をたてる。夜も更けて静まり返った空気の中では音はいつもより響く。何も音がないのも寂しいと、ラジオが小さな音楽を流していた。
「痛くないか?」
指で体の中を弄りながら、遼平が聞いてくる。
「ん」
久しぶりだからか、違和感は強かった。
けれど。
「大丈夫だから」
欲しい気持ちの方が強い。
「もう少しかな」
慎重になってる遼平が焦らしているようにしか思えなかった。
「やだっ……、ぁん」
敏感になっている体はちょっとのことに反応する。手で撫でられただけで体は震えた。
「急ぐことないさ。時間はたっぷりある」
遼平が指を抜く。ぽっかりと体の中が空洞になってしまったみたいだった。
「やだ……欲しい」
智也は遼平の首に腕を回して抱き寄せた。もう、待ちたくなかった。
「きっとまだ苦しいぞ」
遼平が腰に手をかける。
「いいよ。だから――」
欲しかった。
空っぽのままでいたくなかった。
「じゃあ、少しだけ」
くっと入れられて、智也は拡げられたことを感じた。
「あ……」
声が出て、顔が歪んだ。
「だろ」
遼平が離れようとするのを、智也は嫌だと頭を振った。
「我慢するから」
少しぐらい痛くても苦しくても感じていられた方がいい。すぐに体が慣れるのは分かっているから、離したくなかった。
遼平がちゅっと唇に触れてくる。
「無理することないだろ?」
囁く声は優しい。
「だって、触れていたいんだ」
それは、きっと遼平だからだ。
遼平は諦めたように笑った。
「ねえ」
「ん?」
「好き」
「俺も」
軽い言葉のキャッチボールは心を繋いでくれる。触れる体温はそのまま体を繋いでくれる。心の中が温かくて体が熱くて、他には何もいらないと思う。
「これからずっとだよ」
そう、哲平と約束した。
「ああ、ずっとだ」
遼平も約束してくれた。
――僕も約束できるよ
「ずっと、好き」
Fin
最後まで読んでいただきましてありがとうございました。
もうひとつ、近日中に哲平視点の掌編をあげたいと思っています。
哲平はもっと暴れてもいいのかなと思わないでもないんですが、なにせ哲平だから(笑)修羅場っていうのは似合わない気がする。
哲平が味方になってくれれば怖いものなしだね、ということで末永くお幸せにのエンドマークv